拠点長挨拶

工学的見地から見た「元素戦略」とは,希少な鉱物資源を持たない我が国が,限られた条件の下で,希少元素を用いない,あるいはできるだけ希少元素の使用量を減少させた新技術の創出を行い,いかに産出国への依存を減らすことができるか,という極めて実利的なものからスタートしています。しかし一方でそのような技術開発を進めるためには,元素の持つ究極的性質を解明しなければならないという自然科学の深化が重要な鍵となります。「元素戦略」が世に問われてから時間はさほど大きくは経過していませんが,このような基礎研究と応用研究の相乗効果が現在の「元素戦略」の考え方を変化させて来ています。

人類の営みは地球上でますますそのグローバル化の一途を辿りつつあり,現在においては,有資源国に対する無資源国,という単純な構図だけで元素戦略は測れないものとなってきています。例えば,有資源国内で産業が起こってくれば,かつての資源輸出国は極端な場合資源輸入国となってしまいます。つまり,現在の元素戦略は単に一国の利益を担保するためだけのものではなく,限られた地球資源をいかに有効に利用するか,あるいは,ユビキタス元素を用いた新技術が従来の技術をそのパフォーマンスにおいていかに越えていくか,ということに焦点がシフトして来ています。

本研究拠点においては,上記の観点に立ち,希少元素フリーな触媒と二次電池の開発を第一のミッションとします。具体的には,理論・計算科学と実験科学のインタープレイにより,複雑な複合材料である触媒および電池の微視的過程を解明し,複雑・複合系の科学を深化させると共に,新しい触媒・電池材料を予測し,希少元素フリーの新規高性能触媒材料と電池材料を開発するというものです。そしてこの開発研究を通して,優秀な若手人材を養成し次世代に繋いでゆく,ということも重要なミッションです。

私たちは,このような理論・計算科学と実験のインタープレイによる研究開発手法は,触媒・電池材料にとどまらず、21世紀の科学技術の新しい発展を可能にするものであると確信しております。

京都大学 実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点

拠点長 田中庸裕

(京都大学 工学研究科 教授)